時に神々しく、時に壮大に、そして時に優しく。一夜限りのスペシャルライブ&トークセッション
坂本美雨×内田輝×森岡督行
                  
        
        
        
9月下旬、GINZA SIXで一夜限りのスペシャルイベントが開催されました。会場は5Fにある会員制プレミアムラウンジ「LOUNGE SIX」。その拡張リニューアルを記念し、GINZA SIX VIP会員をゲストに特別なライブとトークセッションが繰り広げられました。ゆったりと配置された椅子、濃淡モスグリーンの市松模様に銀と六のマークが描かれた屏風仕立ての壁、そして中央でひときわ目を引く木彫りの円空仏が会場を静寂の世界へと誘います。


ライブを行ったのは、ミュージシャンの坂本美雨さんとクラヴィコード製作者/奏者の内田輝さん。司会には、選び抜いた1冊の本だけを置く一風変わった書店を営む森岡督行さん。その3人が終始なごやかに多彩なトークを展開。それぞれのこだわりが随所に詰まった内容に会場の誰もが興味深く聞き入っていました。

(左から森岡督行さん、坂本美雨さん、内田輝さん)

まずは、3人が出会うことになった1冊の本について森岡さんが口火を切ります。それは約4年前の銀座。森岡書店では欧米で人気を誇る日本人の写真家・山本昌男さんの写真集「SASANAMI」の展示販売会が行われていました。この時、森岡さんが販売したのはフランスの出版社から発行された山本氏の写真集と山本氏の写真スタジオで録音したレコードをセットにしたコラボレーション作品。そのレコード収録に参加してもらったのが坂本美雨さんと内田輝さんでした。そこから森岡さんと坂本さんと内田さんのご縁が始まったそうですが、今回はそんな3人の久しぶりの再会となりました。



トークの途中では、銀座に書店を構える森岡さんならではの「銀座」をテーマにした話も。
内田さんは現在もGINZA SIXの並びにある「銀座ライオン」で行われたおじさんの結婚式での感動エピソード、坂本さんは、坂本さん一家が定宿ならぬ定スタジオにしていた場所、新富町の「音響ハウス」の思い出話をして下さいました。
そしてトークは、気になるクラヴィコードの内容へ。
クラヴィコードは、14世紀頃に作られたとされるピアノの前⾝楽器。中世からルネサンス期の変容する時期に作られたことから、中世の時代の祈りの意識を感じさせると内⽥さんはいいます。その後16世紀以降になるとヨーロッパ全土で広く愛用されていったそうです。鍵盤を押すと小さな棒(タンジェント)が弦を直接突き上げて音を出します。音量が非常に小さいため、多くは静かな室内で個人的に楽しむ楽器として使われていたとか。


この日、内田さんが用意したのは胡桃と神代杉で作ったこげ茶色と清水寺の舞台の檜と欅で作った白っぽい色の2台のクラヴィコード。いずれも内田さん本人が1年かけて製作したものです。内田さんからまずはマイクを外した本来のクラヴィコードの小さな音色を披露。小さな音にフォーカスしようと耳を澄ますことで感覚境界線がなくなり、音を心から楽しめるのもクラヴィコードの魅力のひとつだといいます。

「クラヴィコードは耳を疑うような小さい音です。だから視覚に飛び込んでくる照明などの速い振動数をカットしていき⾳にフォーカスするために、僕はロウソクなどで演奏会をすることが多いです。ですから暗闇はとても重要な状態です」と、振動数から見る音の高低や光の変化などを力説。
また、坂本さんも「以前、プラネタリウムの暗闇でライブをした時、体が全部溶け出してしまう感じがして、見られることから解放されて楽しいという気持ちになりました」と、普段は見る見られるというストレスやプレッシャーを感じていることを語りました。
そんなイマジナティブな2人の希望により照明を極力暗めに設定。仄暗く静寂な会場ですべての感覚が研ぎ澄まされるような時間が流れます。

この日のライブでは3曲を披露。1曲目は内田さん作曲の「グレゴリオ」。サックス奏者でもある内田さんのソプラノサックスから始まる曲です。サックスからクラヴィコードへ移行するや否や重なるように溶け込む坂本さんののびやかな歌声。胡桃と神代杉が織りなすチェンバロのような清々しいクラヴィコードの音色が神々しさを纏います。

2曲目は、2021年の夏に京都の清水寺の舞台で坂本さんとともに奉納演奏をした内田さん作曲の「シルクロード」。クラヴィコードという楽器は場所も時間も人種も超えて脈々とつながっているということを伝えるため、西と東をつなげるシルクロードを意識して作ったといいます。こちらの演奏には、清水寺の檜舞台の貼り替えの際にいただいた檜に欅を合わせて作り、弦に布を被せたクラヴィコードを使用。ピアノのような柔らかい音色に坂本さんのハイトーンボイスが楽器のように重なり合い、幻想的な世界へと迷い込みます。

3曲目は、音楽に傾倒していたことでも知られる宮沢賢治が残した「星めぐりの歌」。かつて、坂本さんと内田さんは賢治が弾いたオルガンがある盛岡の教会で演奏したことがあるという思い出の曲です。2人が尊敬してやまない宇宙物理学者の佐治晴夫先生によると、「138億年前に宇宙が創生されて、そこから分裂再生を繰り返し、銀河系に地球ができている。なので私たちは星のかけらです」。構成比率は違えど星も人の体も元素からできているという佐治先生の教えを噛みしめるように坂本さんは歌います。「赤い目玉のサソリ~広げた鷲の翼~」。漆黒の宇宙に現れる星座を思い描きながら聞き入るクラヴィコードの檜と欅の温もり。静かな優しさが会場を包み込みます。

曲によって2台を使い分ける内田さんのクラヴィコードの音色とそれに合わせながら声という楽器を響かせる坂本美雨さんの美しい歌声。ハイトーンはもちろん、坂本さんならではの豊かな中音域に会場の誰もが酔いしれていました。時に神聖に、時に壮大に、そして時に優しく。暗めに演出した会場を心地よい音だけが包み込みました。それはまさに銀座でいて銀座でない、現代でいて現代でない、不思議な空間。音が持つ振動(波動)がそこにいるすべての人の心をつなげた尊い時間でした。

ライブ終了後は、クラヴィコードを囲みながら内田さんがゲストの様々な質問に丁寧に答えていました。間近で見るクラヴィコードに「美術品ですね」「ピアノみたい」「これをご自分で全部作ったのですか?!」「どの部分が清水寺の木ですか?」など、ライブに感動したゲストの驚嘆の声や質問が集中。中には実際に音を鳴らしてみる方もいました。美しい飾りが施された初めて見る木製の楽器「クラヴィコード」。その音色は、この日ライブに参加したゲスト一人一人の心に響いたに違いありません。

こちらのライブの模様はGINZA SIXオリジナル ポッドキャスト「銀座は夜の6時」で詳しくお届けしております。そちらをぜひお見逃しなく。
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