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IMADEYA×黒龍酒造 世界へ羽ばたく日本酒の伝統と革新
GINZA SIXのVIP会員をゲストに迎えて、日本をリードする様々な文化人たちが学びの場を提供する「CREATIVE SALON」。2025年の1月に開催されたプログラムでは、「幻の酒を醸す。未来へつながる酒文化の創造」と題して、B2Fに店舗を構える酒店IMADEYAの代表取締役社長・小倉秀一氏と、日本酒ブランド「黒龍」などを手がける黒龍酒造8代目蔵元の水野直人氏のお二人が、GINZA SIX会員制ラウンジLOUNGE SIXで、酒文化のこれまでとこれからを語り合いました。
そのスタートを飾るべくまず振る舞われたのは、黒龍酒造のスパークリング日本酒「KOKURYU AWA」。酒販店などでの展開はこれからという希少酒の爽やかな喉越しに、参加者たちは感嘆の声を漏らします。
一部のレストランでしか流通が予定されていない希少酒。
「KOKURYU AWA」について「この日のために特別にご用意していただいたお酒です。複雑なレイヤーを感じる素晴らしい味わいですね」と、乾杯の音頭をとった小倉氏。IMADEYAはGINZA SIXの開業時からB2Fに「いまでや銀座」として店舗を構え、蔵元から直送の地酒・本格焼酎・日本ワインなど多様に揃えています。小倉氏は全国の酒造をめぐり旨い酒を探し続けるなかで、水野氏に出会い、その人柄と造り出す酒に惚れ込んだといいます。
乾杯の音頭をとる「いまでや」の代表取締役社長・小倉秀一氏。
「伝統を大事にしながらも革新を続ける水野さんの酒造りへの熱い思いに、大変感銘を受けたのです。そしてなによりも黒龍酒造の酒は旨い。これを日本全国に、そして世界に届けたいと強く思いました」(小倉氏)
小倉氏を惹きつけたという黒龍の酒造りへの思いを、水野氏はこう語ります。
「黒龍酒造は1804年、文化元年に福井県の松岡藩、現在の永平寺町松岡春日という土地で創業しました。蔵の前には九頭龍川が流れていて、その伏流水と福井の米を使って代々酒を造ってきました。この清らかな川から生まれるものを発信していく。それこそが文化元年の創業以来、私たちの使命であり続けています。私は20代の頃から世界をめぐり、ワインやウイスキーなど世界中の酒造りの場を見てきました。そして彼らがその土地を愛し、自分たちの造り方を実直に貫いている場所にこそ、世界中から人が訪れているのだと気がついたのです。当時まだ日本酒は世界で売られていませんでしたから、いずれ必ず日本酒を世界にという思いを胸に、そこから30年以上努めてきました」(水野氏)
自身が造り出した酒を前に語る「黒龍酒造」8代目蔵元の水野直人氏。
その思いに改めて触れ、続いて、小倉氏がIMADEYAのストーリーを語り始めます。
「弊社は1962年に私の父が創業した千葉の酒店です。私はビール会社に勤務したのち、37年前に家業に戻りました。その際にただお酒を置くだけではなく、全国の生産者の方の思いを届ける場所にしたいと考え、日本のクラフト酒を集める酒のセレクトショップとして再スタートをしたのです。今では世界21カ国に輸出、さらに千葉県と都内で7000軒以上の飲食店にも卸していて、世界に誇れる日本の飲食店で、日本のクラフト酒をプレゼンし続けています」(小倉氏)
ともにゴルフを楽しむ仲だというお二人が仲睦まじく杯を交わす。
ワインのように熟成させるヴィンテージの日本酒
そうしてお二人それぞれが日本酒への思いと自らの信念を語り始めるなか、参加者には2杯目の酒「黒龍 石田屋」が振る舞われます。こちらも入手困難な希少酒です。
「年に1回、11月にだけ発売させていただくお酒です。テイスティングで合格した酒しか『黒龍 石田屋』にはなれず、さらにそれを2年間熟成させるため、出荷できる本数が少ない。ワインの葡萄と同じく、米も毎年味が違うため、合格が出せる酒の量もばらつきがあります」(水野氏)
精米歩合35%の兵庫県東条産の特Aランク山田錦を、丁寧に低温で醸した純米大吟醸酒「黒龍 石田屋」は、氷温にて2年熟成させることで落ち着いた香りときめ細やかな口当たりへと変化。実はこちら、小倉氏に新たなアイデアを授けた酒でもあるのだといいます。
IMADEYAのロゴが入ったワイングラスでもてなされた日本酒。
「日本酒は新しいものがいいと思われているかもしれませんが、実は適正な熟成をさせたのちに出荷している蔵が多いのです。あるとき『黒龍 石田屋』も2年熟成だからこそ深い味わいになると知り、酒のエイジングに興味が湧き、弊社でも日本酒を含む国産蒸留酒を熟成させて飲み頃を迎えた際に販売する『IMADEYA AGING LABORATORY』をスタートさせました」(小倉氏)
水野氏もまた“ヴィンテージの日本酒”という価値観を根付かせるため、「黒龍 石田屋」では使用した米の生産地と生産年を記していると語り、お二人のお話は2024年にユネスコの無形文化遺産に日本の伝統的酒造りが登録され、世界中が今、日本酒に関心を寄せていることにも派生していきます。
提供された日本酒を味わいながら、情熱あふれるトークに耳を傾ける参加者。
「フランスのブルゴーニュでは見渡す限りぶどう畑という場所に世界中から多くの人が訪れますが、これはワインを愛する人たちが、その味わいだけでなく、ブルゴーニュの土地をも愛しているからだと思うんです。酒造りが注目されるなか、今こそブルゴーニュとワインラバーのような関係を日本酒で完成させたいと考え、我々も日本酒を軸に、福井と北陸の文化を国内外へ発信する施設を造りました」(水野氏)
それが、2022年に黒龍酒造擁する石田屋二右衛門株式会社(同社長)によってオープンした施設「ESHIKOTO」。古語でいう「えしこと(良いこと)」が出会い交わる場所であってほしいという想いが込められ、九頭龍川のほとりに、ESHIKOTOの限定酒をテイスティングおよび購入ができるショップ、福井の食材をベースに地元の永平寺の禅とフランスのエッセンスを加えたレストラン&パティスリーを展開。2024年11月には、建築家の隈研吾さんが建築を監修した福井の伝統的な蕎麦を黒龍の日本酒と味わう蕎麦屋と、黒龍の酒粕などを使ったパンなどをラインナップしたベーカリーも加わり、源泉掛け流しの温泉露天風呂付きのヴィラ8棟を擁するオーベルジュ「歓宿縁」も誕生しました。
「ESHIKOTOは川と山々を望む田舎の風景の中にあります。建築家のサイモン・コンドルさん(鹿鳴館などをつくった建築家ジョサイア・コンドルの子孫)に建てていただいた臥龍棟という建築内には、本日味わっていただいたスパークリング日本酒『KOKURYU AWA』を瓶内熟成させる熟成庫も造りました。エイジングによってどんな酒に変化していくのか、私たちも楽しみなんです。さらにレストランの建築ディテールには福井の伝統工芸作家の作品を使用したり、築300年の古民家の梁を移築したり、酒を入り口としながら酒に興味がない方でも、見どころを感じていただける場所になっていると思います」(水野氏)
自然に囲まれたESHIKOTOについてスライドで説明する水野氏。
これにはESHIKOTOを訪れたことのある小倉氏も大きく頷くなか、参加者に配られた3杯目は「黒龍 純米大吟醸 越前和紙」。福井伝統の越前装飾和紙をラベリングしていることから命名された酒で、すでに完売のため、味わうことができる貴重な機会となりました。
さらにそこから振る舞われたのは「黒龍 純吟」。福井県産の五百万⽯という米から造られ、米の旨味を感じつつ爽やかな飲み心地が特徴です。
「実は日本酒は抜栓して数日経つと熟成されて味わいの変化が楽しめます。ご自宅で楽しまれる場合は、飲む少し前に抜栓して冷蔵庫に入れて置くという方も。そうして味わいが変化した『黒龍 純吟』は、熟成されたチーズともよく合いますよ」(水野氏)
そんな水野氏の言葉とともに、いまでや銀座でも販売され、北海道中川郡の新田牧場産の文字通りほっぺのような柔らかい食感が人気だという「ナチュラルチーズ大地のほっぺ」が参加者のテーブルに。「黒龍 純吟」とのマリアージュに、水野氏も小倉氏も思わず笑顔がこぼれます。
「大地のほっぺ」といただく「黒龍 越前和紙」と「黒龍 純吟」。
酒文化を支えることは日本を支えること
それぞれの立場から日本酒を世界へ発信するお二人。互いへのリスペクトと信頼を醸しながら、CREATIVE SALONはあっという間に終盤へ。振る舞われた最後の一杯は、上品な甘さの「黒龍 貴醸酒」。純米吟醸の「黒⿓ 純吟」を贅沢に仕込んだ貴醸酒を飲みやすく仕上げたもので、小倉氏曰く「蜜のような甘さと酸味、黒龍ならではのキレが、ビターなカカオと相性ぴったり」とのことで、参加者のもとにサーブされたのは、こちらもいまでや銀座で販売されている鎌倉発祥のアロマ生チョコレートブランド「MAISON CACAO」のカカオニブチョコレート。
ビターなカカオニブチョコレートは「黒龍 貴醸酒」と相性抜群。
「ウイスキーやワインだけではなく、貴醸酒にもチョコレート! そんな楽しみ方もいいですよね」(小倉氏)
左から「KOKURYU AWA」「黒龍 石田屋」「黒龍 越前和紙」「黒龍 貴醸酒」「黒龍 純米吟醸」。
参加者とともに小倉氏と水野氏もすっかり黒龍の日本酒に酔いしれ、最後は日本酒の現在と未来、そして、それぞれの使命についての語らいに。
「人々のライフスタイルも変わり、酒の種類に関わらずアルコール度数の低いものが好まれる傾向にあります。我々もそうした流れのなかで、『度数が低くても美味しい日本酒を』と取り組んでいるところです。最初に飲んでいただいた『KOKURYU AWA』も、実は12度くらいの低アルコールなんですよ。昔ながらを大切にしつつ、時代に合わせて革新的なことも行いながら、同じようなチャレンジをしている新しい蔵元とも切磋琢磨して、新しい時代の日本酒を造っていきたいですね」(水野氏)
「日本酒全体でいえばピーク時に比べて消費量は格段に下がっています。一方で黒龍酒造さんのようなクラフトの上質な酒の消費量は上がっている。つまり、いいものをしっかりとプレゼンすれば、届く時代だと思うんです。それを私たち酒店がまずやらなければいけない。日本の素晴らしい酒文化、匠の技、米農家、ひいては日本を支える、最前線にして重要な仕事だと改めて自覚しています」(小倉氏)
なお、終演後は世界に羽ばたく日本酒の伝統と革新を担うお二人のお話に感化された参加者が小倉氏と水野氏のもとに続々と歩み寄り、さらなる交流を深める場面も。なかには「歓宿縁」に早速予約を入れようとされる方、さらにはB2Fのいまでや銀座へと向かう方、それぞれの姿がありました。
Photos: Kanako Noguchi
Text: Momoko Yasui
Production: 81 Inc.